「パソコンが動かないから、詳しい人に聞く」
「Wi-Fiの調子が悪いので、総務が業者へ電話する」
「Microsoft 365の設定は、以前担当していた社員しか分からない」
「システムを入れ替えたいが、どの会社へ相談すればいいか分からない」
地方の中小企業では、情報システム部門を持たず、総務、営業、経営者などがIT業務を兼任しているケースも珍しくありません。
しかし企業で使うITは、以前より複雑になっています。
PCやプリンタだけでなく、
Microsoft 365やGoogle Workspace。
クラウドストレージ。
社内ネットワーク。
Webサイト。
業務システム。
セキュリティ。
アカウント管理。
生成AI。
など、管理する対象は増え続けています。
IPAの「DX動向2025」では、日本企業の8割以上がDXを推進する人材について不足を感じていると回答しています。
また、IPAが2026年に改訂した「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」でも、中小企業がIT・情報資産を組織的に管理する必要性が改めて示されています。
参考情報:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
そこで選択肢になるのが、「外部情シス」です。
専任のIT担当者を一人採用するのではなく、社外の専門家やIT会社に情報システム部門の一部を担ってもらう。
ただし、外部情シスは「パソコンのトラブルを全部外注するサービス」ではありません。
本当に重要なのは、
社内にいなかった“ITについて相談し、判断できる人”を外部につくることです。
IT担当者がいない会社では「詳しい人」に仕事が集まる
IT担当者がいない会社でも、IT業務そのものがなくなるわけではありません。
新入社員が入ればPCを準備する。
退職者が出ればアカウントを停止する。
パソコンが壊れれば対応する。
Wi-Fiがつながらなければ調べる。
業務システムを更新する。
バックアップを確認する。
不審なメールが届けば判断する。
こうした仕事は誰かが対応しなければなりません。
その結果、
「一番パソコンに詳しい人」
へ仕事が集まりやすくなります。
営業担当者なのに社内のPCトラブルを対応する。
総務担当者がMicrosoft 365を管理する。
社長自身がITベンダーとの打ち合わせに参加する。
最初はそれでも回ります。
問題は会社が成長したときです。
PCが10台から50台になる。
拠点が増える。
クラウドサービスが増える。
社員の入退社が増える。
取引先からセキュリティ対策を求められる。
すると、これまで「詳しい人が何となく対応していた仕事」が、会社全体のリスクになってきます。
外部情シスは「IT担当者を一人借りる」ものではない

外部情シスとは、社内の情報システム部門が担当する業務の一部または全部を、外部の専門家へ委託する方法です。
例えば、
PC・スマートフォンの管理。
アカウント管理。
社内ヘルプデスク。
ネットワーク管理。
Microsoft 365の運用。
IT資産管理。
セキュリティ対策。
システム選定。
ベンダーとの調整。
IT予算・IT戦略。
などを依頼できます。
ここで大切なのは、
「作業を外注する」ことと「判断を支援してもらう」ことは違う
という点です。
例えば、
「PCを10台設定してください」
なら作業代行です。
一方、
「PCを買い替えたいが、どの機種・管理方法・セキュリティ構成にすべきか」
まで相談するなら、外部情シスとしての役割に近くなります。
地方企業に必要なのは、後者であるケースが少なくありません。
事例① 新潟・幸せホーム|NAS故障で「過去数年分のデータ」を失ったことが転機に
新潟県内で不動産売却やリフォームを手掛ける有限会社幸せホームでは、専任の情報システム担当者を置いていませんでした。
社内のIT環境を担っていたのは総務広報担当者です。
専門的なIT知識を持つ社員がいるわけではなく、必要に迫られながら自分で調べ、社内ネットワークやファイル共有環境を整えていました。
ところが、同社ではIT担当者不在の怖さを実感する大きな出来事が起きます。
社内で利用していたNASが突然故障し、過去数年分の業務データが利用できなくなったのです。
復旧方法が分からないまま操作した結果、データを上書きしてしまい、最終的には過去数年分のデータを復元できなくなりました。
不動産会社が扱うのは、契約関係の資料だけではありません。
物件写真。
リフォーム工事のデータ。
CADデータ。
さまざまな業務情報が蓄積されています。
つまりファイルサーバーが止まることは、単に「パソコンが使えない」という問題ではありません。
会社の重要な資産そのものを失う可能性があるということです。
その後もNASを買い替え、バックアップ環境を整えましたが、別のNASでも不具合が発生。
バックアップが正常に取れないこともあり、担当者は「いつまたデータを失うか分からない」という不安を抱えながら運用を続けていました。
そこで相談したのがNTT東日本です。
2019年から、社内のファイルサーバーをAmazon Web Services(AWS)へ移行。
さらに閉域ネットワークなどを組み合わせ、クラウド上のデータへ安全にアクセスできる環境を構築しました。
ポイントは、クラウドへ移したことだけではありません。
クラウドサーバーの保守・管理まで外部の専門家へ任せたことです。
同社では導入後、
- 安心して利用できるファイルサーバー環境を構築
- データ消失への不安を軽減
- 閉域ネットワークによってセキュリティを強化
- 保守・管理や運用・メンテナンスを外部化
- 社内担当者のIT運用負担を大幅に軽減
といった変化が生まれています。
この事例が示しているのは、
「トラブルが起きたら業者を呼ぶ」のと、「会社のIT環境を継続的に管理してもらう」のはまったく違う
ということです。
IT担当者がいない会社では、
バックアップできていると思っている。
NASは動いているから問題ないと思っている。
ネットワーク設定も昔のまま使えている。
という状態になりがちです。
しかし、本当に問題がないかどうかを判断できる人が社内にいなければ、障害が起きて初めてリスクに気づくことがあります。
幸せホームの事例では、データ消失という大きな経験をきっかけに、
「自分たちで何とか管理する」から「専門家も含めた体制で会社のITを守る」
へ発想を変えました。
外部情シスを考える理由は、日々のPCトラブルを減らすことだけではありません。
会社の重要な情報を、誰が・どのような仕組みで守るのかを決めることも、情シス機能の重要な役割です。
参考情報:幸せホーム「外部情シス」導入事例
事例② 富山・中尾清月堂|10年以上使った基幹システムをどう入れ替える?
富山県高岡市で和洋菓子を製造・販売する株式会社中尾清月堂も、IT専任担当者がいない企業でした。
課題になったのは、10年以上使い続けていた基幹システムです。
Windows 10のサポート終了などに伴い、既存システムの保守終了が決まっていました。
ところが、
仕様書がない。
マニュアルもない。
どの機能が必要なのか整理されていない。
クラウドやパッケージシステムについて判断できる人も社内にいない。
という状態でした。
ここでは「IT顧問 情シス君」が採用されました。
まず現場へヒアリングし、
何を入力しているのか。
どんな帳票を出しているのか。
会計とどう連携しているのか。
どの機能を新システムへ残すべきか。
を整理しました。
さらに要件定義やスケジュール管理、開発ベンダーとの調整まで支援しています。
結果として、VPNに依存していた旧システムから、権限を持つ担当者が場所を選ばずアクセスできる環境へ移行。手作業だった一部の集計も自動化されました。
そして、この事例にはもう一つ重要なポイントがあります。
中尾清月堂は、その後社内の情報システム担当者を採用しています。
つまり、
外部情シスを導入したら、ずっと外注し続けなければならないわけではありません。
外部の専門家と一緒に、
業務を整理する。
ルールをつくる。
ドキュメントを残す。
社内担当者を育てる。
そして将来的に内製化する。
という使い方もできます。
参考情報:中尾清月堂「IT顧問 情シス君」導入事例
事例③ 横浜赤レンガ|365日動く施設を「兼任情シス」で支えない
約60店舗が入る商業施設を運営する株式会社横浜赤レンガでは、営業部の社員が施設管理とIT業務を兼任していました。
システム管理。
IT機器管理。
ヘルプデスク。
新しいシステムの検討。
などを、本来の業務と並行して行っていました。
しかも商業施設は365日稼働します。
担当者が休みの日にトラブルが起きても、
「IT担当者が今日はいないので対応できません」
とは言えません。
そこで利用しているのが、クロス・ヘッドの「情シスSAMURAI」です。
日常的な問い合わせはリモートのチームが対応し、現地での作業が必要なものはオンサイトで対応。
さらにメール誤送信やパスワード管理など、それまで社内では課題として認識できていなかった部分についても改善提案を受けています。
その結果、日々のITサポートだけではなく、クラウド化やDX推進についても検討できるようになりました。
この事例から分かるのは、
外部情シスは「担当者の代わり」ではなく「担当者を一人にしない仕組み/属人化を回避する仕組み」にもなる
ということです。
社内にIT担当者が一人いても、その人しか分からない状態なら「ひとり情シス」です。
その人が退職する。
休む。
異動する。
だけで、会社のIT運用が止まる可能性があります。
外部チームと情報を共有しておけば、
「担当者一人の頭の中」から「会社として管理できるIT」へ変えられます。
何を外部へ出して、何を社内に残すべきか

外部情シスを導入するときに、
「IT業務を全部お願いします」
と丸投げするのはおすすめできません。
社内に残した方がよい役割と、外部化しやすい役割を分けます。
| 業務 | 外部化の考え方 |
|---|---|
| PC初期設定 | 外部化しやすい |
| 社員からのIT問い合わせ | 外部化しやすい |
| Microsoft 365等の設定 | 外部専門家と相性が良い |
| IT資産台帳 | 外部に整備を依頼しやすい |
| ネットワーク管理 | 外部専門家と相性が良い |
| セキュリティ監視・対策 | 外部知見を活用しやすい |
| ベンダーとの技術的な調整 | 外部情シスが有効 |
| システム選定 | 社内+外部で判断 |
| IT予算 | 最終判断は社内 |
| 会社としてのIT方針 | 経営側が決める |
| 誰にどのデータを見せるか | 社内が責任を持つ |
ポイントは、
作業は外へ出せても、会社としての意思決定まで外へ出さない
ことです。
IPAの中小企業向けセキュリティガイドラインでも、情報セキュリティは経営者が認識し、組織として取り組むべきテーマとされています。
外部情シスは経営判断を代わりにする存在ではなく、経営者が正しく判断できるように専門知識を提供する存在と考えた方がよいでしょう。
参考情報:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」
最初の1か月は「新しいシステムを入れない」
IT担当者がいない企業が外部情シスを導入するとき、いきなりDXツールを導入する必要はありません。
むしろ最初にやるべきなのは、
現在のIT環境を見える化することです。
最低限、次のようなものを整理します。
- PC・スマートフォンなどの端末
- Microsoft 365・Google Workspaceなどのアカウント
- 業務システム
- サーバー・NAS・クラウドストレージ
- ネットワーク・Wi-Fi
- 契約しているITサービス
- 外部ITベンダー
- ドメイン・Webサイト
- バックアップ
- 管理者権限を持っている人
- 入退社時のIT手続き
- セキュリティルール
これだけでも、
「退職した社員のアカウントが残っていた」
「誰も使っていないサービスへ毎月料金を払っていた」
「バックアップしているつもりだったが復元方法を誰も知らない」
「ネットワーク機器の管理者パスワードが分からない」
といった問題が見つかることがあります。
進和商事の事例でも、まず約1か月をかけてIT環境を整理したことで、その後の判断が進めやすくなっています。
DXの最初の仕事は、新しいものを買うことではなく、今あるものを知ること。
ここから始めるのが現実的です。
外部情シスを選ぶときは「対応できる作業数」だけを見ない

外部情シスサービスを選ぶ際は、月額料金だけではなく、支援範囲を確認する必要があります。
特に見ておきたいのは、
日常対応と改善支援の両方ができるか
です。
例えば、
「プリンタが動かない」
への対応は必要です。
しかし、それだけでは会社のIT環境はよくなりません。
本当に必要なのは、
なぜ問い合わせが多いのか。
同じトラブルを繰り返さない方法はないか。
古いシステムをいつ更新するか。
セキュリティ上の穴はないか。
ITコストを減らせないか。
AIやクラウドをどこに使えるか。
まで考えてくれる相手です。
もう一つ重要なのが、情報を会社側に残してくれるかです。
外部情シス会社しかネットワーク構成を知らない。
外部担当者しか管理者アカウントを知らない。
契約を終了したら何も分からない。
では、新しい属人化をつくっただけです。
マニュアル。
IT資産台帳。
ネットワーク構成図。
アカウント一覧。
運用ルール。
などを、自社でも確認できる状態にしておく必要があります。
「IT担当者を採用できない」を、弱みにしない
地方企業がIT担当者を採用しようとしても、専門人材がすぐに見つかるとは限りません。
さらに一人採用できたとしても、
ネットワーク。
セキュリティ。
クラウド。
業務システム。
AI。
Web。
すべてに詳しい人材を一人で確保するのは簡単ではありません。
そこで発想を変えます。
「ITに詳しい社員を一人採用する」のではなく、「必要な専門性を持ったチームへアクセスできる状態をつくる」。
例えば、以下のように置き換えるのが自然です。
幸せホームのように、社内だけで抱え込まず、外部の専門家に任せる。
中尾清月堂のように、外部専門家の力を借りながら、将来的な内製化へつなげる。
進和商事のように、まずブラックボックスになったIT環境を整理する。
外部情シスには、さまざまな使い方があります。
重要なのは、
「情シスがいないから外注する」ことをゴールにしないことです。
最終的に目指したいのは、
誰が管理しているか分かる。
何を使っているか分かる。
困ったときに相談できる。
重要な判断には専門家の意見を聞ける。
担当者が辞めても運用が止まらない。
という状態です。
IT担当者がいない会社に必要なのは、必ずしも「IT担当者を一人雇うこと」ではありません。
社内に情シス部門を置けないなら、社外も含めて情シス機能をつくる。
地方企業にとって外部情シスは、人材不足を補うだけではなく、会社のITを「詳しい人頼み」から「仕組みで管理するもの」へ変える選択肢になります。


