地方の物流会社では、配車表をホワイトボードに書き、変更があれば電話でドライバーへ連絡する。荷主から追加依頼が入ると、配車担当者が頭の中で車両を組み替える。
こうした運用は、決して珍しいものではありません。
むしろ、長年同じ地域を走り、荷主やドライバーの特徴まで理解している担当者がいるからこそ、アナログな方法でも高い精度で配車できている会社があります。
問題は、その担当者しか配車できなくなったときです。
「この荷主は午前中に行った方がいい」「この道は大型車では入りにくい」「このドライバーはこの方面に詳しい」といった判断が担当者の頭の中だけにあると、休暇や退職、事業拡大をきっかけに配車業務が回らなくなる可能性があります。
現在は物流効率化法でも、トラック事業者に積載効率の向上など物流効率化への取り組みが求められています。2026年4月からは一定規模以上の事業者に中長期計画や定期報告なども義務付けられており、配車や運行を「経験だけで管理する」状態から、データで把握できる状態へ移していく重要性は高まっています。
参考:物流効率化法について
では、中小・地方の物流会社はどこから変えればよいのでしょうか。
配車業務が属人化するのは、担当者が「考えていること」が見えないから

配車という仕事は、単に空いているトラックへ荷物を割り当てる仕事ではありません。
配送先、時間指定、車格、積載量、ドライバーの勤務時間、道路事情、荷主ごとのルール、帰り荷など、多くの条件を同時に考えています。
さらに実際の現場では、
「この取引先は15時を過ぎると荷卸しに時間がかかる」
「この現場は4トン車までしか入れない」
「帰りに○○市を通るなら、別の荷物を積める」
といった経験則が加わります。
だからこそ、単純にホワイトボードを配車システムへ置き換えるだけでは、うまくいかないケースがあります。
最初に行うべきなのは、現在の配車担当者が何を基準に判断しているのかを可視化することです。
例えば、1週間だけでも配車担当者に「なぜこの車両を選んだのか」を記録してもらうと、自社独自の配車ルールが見えてきます。
これはDXというより、まず「配車担当者の頭の中を会社の資産にする」作業です。
車両が増えた瞬間、Excelでは管理しきれなくなることがある
九州を中心に事業を展開する株式会社タカスイの公開事例は、地方企業にも参考になります。
同社グループでは、もともと車両10台程度だった段階では大規模なシステム化を必要としていませんでした。
しかし2019年に福岡県の園原運輸がグループに加わり、一気に約80台規模へ拡大。さらに2021年には大分県の東九運輸が加わり、約30台増加しました。
当初はExcelでグループ共通の管理を行っていましたが、拠点や車両、ドライバー、取引先が増えるにつれて、ファイル更新や共有、集計が複雑化していきました。
そこで、配車管理から請求までを一元管理するシステム導入へ進んでいます。
参考:株式会社タカスイ 事例
この事例で興味深いのは、
「アナログだから悪い」のではなく、「事業規模が変わったことで従来の方法が合わなくなった」
という点です。
車両10台なら、担当者の記憶とホワイトボードで十分かもしれません。
30台、50台、複数営業所と増えていけば、同じ方法では情報共有の負荷が急激に大きくなります。
つまり、配車DXを考えるタイミングは「最新システムが登場したから」ではありません。
現在の管理方法では事業規模に追いつかなくなったときが、一つの判断基準になります。
「電話をなくす」より、「電話する価値のある内容」だけ残す
配車DXでは、
「電話をなくす」
「FAXをなくす」
という話になりがちです。
しかし、電話そのものが悪いわけではありません。
株式会社ユポ・コーポレーションの物流DX事例では、導入前は紙の記録に加え、電話・メール・チャットなど複数の方法で運送会社とやり取りしていました。
システム導入後は配車情報を一か所へ集約し、対象業務時間を約45%削減。公開事例では約30時間の業務削減につながったとされています。
一方で、同社は電話そのものをなくしたわけではありません。
事前確認など、システムを見れば分かる連絡は減らし、急な変更や相談など、人が話した方がよいコミュニケーションは電話に残しました。
これは地方企業のDXを考えるうえでも重要な視点です。
長年取引している荷主や協力会社との関係まで機械的にする必要はありません。
「電話をゼロにする」のではなく、
確認の電話を減らし、相談の電話を残す。
それだけでも、配車担当者の負担はかなり変わります。
AI配車は、ベテランを不要にするものではない

配車業務を効率化する選択肢として、AIによるルート最適化も実用段階に入っています。
愛知県春日井市の前田鐵鋼株式会社では、配車計画にルート最適化システム「Loogia」を導入しました。
公開されている導入事例によると、配車担当者の作業時間を1日あたり約2時間削減し、ドライバー6人を含めた会社全体では、月間約280時間の業務削減につながったとされています。
参考:前田鐵鋼株式会社 事例
また、日本ロジテム株式会社では、自動配車システムの導入検証において配車計画や周辺業務の工数を約51%削減しています。担当者が変わった後も配車品質を維持できたことが報告されています。
ここで勘違いしたくないのは、AIへ配車を丸投げすることが目的ではないということです。
ベテラン担当者が持っている、
「この顧客はこの時間が良い」
「このルートはこの車格では避ける」
といった知識を条件として整理し、システムに反映していく。
つまり、
ベテランの経験をAIで置き換えるのではなく、ベテランしか知らなかった判断を会社全体で使える状態にする
という考え方です。
最初から「AI自動配車」を目指さなくてもいい
地方の中小物流会社の場合、いきなり高機能な配車システムを導入する必要はありません。
むしろ、現在ほとんどデータが残っていない状態でAI配車を導入しても、自社に適した条件を設定できないことがあります。
例えば最初の段階では、ホワイトボードに書いていた情報をクラウド上の共有表へ移すだけでも構いません。
車両番号、ドライバー、配送先、出発予定、帰着予定、現在地、空車になる予定時刻。
これらが事務所にいなくても確認できるだけで、情報共有は変わります。
次にGPSやスマートフォンを使って実際の走行時間を蓄積する。
その後、配車システムやルート最適化を検討する。
デジタル化 → データ化 → 最適化
という順番です。
システム導入をゴールにしないことが、結果的にDXを進めやすくします。
配車データは「業務効率化」だけに使うものではない
ここからは、配車情報をデータ化した先の話です。
例えば、毎日の運行データを蓄積すると、
「○○市方面へ行く車両は、毎週火曜日の午後に空車で戻ってくる」
ということが見えてくるかもしれません。
これまでなら、「帰りは空車になることが多い」という担当者の感覚で終わっていた情報です。
しかし、それがデータになれば、
その帰り道に積める荷物を探す営業活動
へ変えることができます。
配車データが営業データになるわけです。
ほかにも、特定荷主だけ待機時間が長いことが分かれば、荷主との改善交渉材料になります。
特定地域への配送量が毎週似ているのであれば、近隣企業との共同配送を検討できる可能性もあります。
国の物流効率化政策でも、積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、配送共同化などが重要な取り組みとして位置付けられています。
つまり配車DXには、
「今ある仕事を早く終わらせる」だけではなく、「今まで見えなかった経営情報を見つける」
という使い方があります。
「空いているトラック」を地域で共有する発想もある
さらに視点を広げると、一社だけで配車を最適化することが最終形とも限りません。
地方では、A社のトラックが午前中に福岡から大分へ向かい、空車で福岡へ戻っている一方で、B社は同じ時間帯に大分から福岡へ運ぶ車両を探している、といったことが起こり得ます。
企業単独で見ると「帰り荷がない」。
地域全体で見ると「運べる荷物がある」。
このズレをマッチングできれば、トラックを増やさずに地域全体の輸送力を高められる可能性があります。
実際、国土交通省も配送の共同化や輸送網の集約を先述の物流効率化法の施策として挙げています。
地方の物流DXは、自社の配車表をデジタル化するところから始まり、
「地域の空いている輸送能力をどう共有するか」
というところまで発展する余地があります。
これは、人口減少が進む地域ほど考えておきたいテーマです。
システム導入前に「1営業所・1荷主」で試してみる

配車システムを導入するとき、全車両を一度に切り替える必要はありません。
むしろ、
「A営業所だけ」
「特定の荷主だけ」
「定期配送だけ」
という小さな単位から始めた方が、現場の負担を抑えられます。
佐川急便とオプティマインドによるルート最適化の取り組みでも、まず実地検証を行い、その後全国約500人のドライバーで試験導入を行ったうえで本格導入へ進んでいます。
試験導入では、特に経験の浅いドライバーや担当エリアへの習熟度が低いドライバーから継続利用を望む声があった一方、操作性など新たな課題も確認されました。
参考:佐川急便 事例
大企業でも、最初から完成形をつくっているわけではありません。
地方の中小物流会社ならなおさら、
小さく試す → 現場で修正する → 広げる
という進め方の方が現実的です。
配車DXの目的は「配車担当者を減らすこと」ではない
配車担当者は、物流会社の中でも非常に多くの情報を持っています。
荷主の特徴。
ドライバーの特徴。
道路事情。
繁忙期。
車両。
積載。
取引先との関係。
この知識は、本来かなり価値のある経営資産です。
ところが電話、紙、ホワイトボードだけで業務が完結していると、その情報の多くが会社に残りません。
配車DXで重要なのは、担当者をシステムに置き換えることではなく、
担当者が持っている知識を会社に残し、他の社員も活用できる状態にすることです。
そこまで進めば、配車担当者自身も、毎日の確認電話や転記作業から離れ、
「どうすれば積載率を上げられるか」
「帰り荷を増やせないか」
「他社と共同配送できないか」
といった、より重要な仕事に時間を使えるようになります。
電話やホワイトボードを使っていること自体が問題なのではありません。
情報が一人の頭の中にしか存在しないことが問題なのです。
まずは現在の配車担当者が、毎日何を見て、何を考え、なぜその配車を組んでいるのか。
そこを見える化するところから、地方物流会社のDXは始められます。

